経済産業省によると、2025年までにDXを実現できない企業は、深刻な経営危機に陥ることが懸念されています。製造業でもコストの削減や生産性の向上、顧客満足度のアップに向けて導入が進んでいます。
ところが「製造業DXの現状や進め方がわからない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、製造業DXの動向や成功させるポイント、進め方を紹介します。企業事例集もまとめているので、本記事を読めば今よりもDXのイメージが明確になるでしょう。
目次
製造業DXとは?
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略です。具体的には、AIやIoTなどのデジタル技術を駆使して、業務フローの改善やビジネスモデルの変革を実現し、競争上の優位性を確立することです。
DXの意味を踏まえると、製造業DXは製造装置や工程のデジタル化を軸に、商品やサービス、ビジネスモデルの変革を実現することといえます。
製造業DXの動向
DXの重要性は製造業全体に広がっています。「日経BP総合研究所 クリーンテックラボ」と「日経クロステック」が2020年12月に実施した調査では、アンケート対象企業の78.5%以上が「DXは重要である」と回答しました。
同調査では「DXへの着手状況」についてのアンケートも実施。「現在取り組んでいる」が最も多く、44.9%と半分ほどの企業がすでにDXの導入を進めていることがわかりました。
参考:製造業DX調査レポート
このように、製造業はDXの取り組みへの意欲が高い業界といえるでしょう。
製造業DXが注目されている理由
多くの製造企業がDXを重要視し、導入を進めているのにはいくつか理由があります。製造業DXが注目されている理由を一つずつ見ていきましょう。
生産効率の向上
1つ目の理由は、生産効率の向上が期待できるからです。例えば、DXを進めると今まで人の手で行っていた製品の検品や機械の点検などの作業は、AIやIoTを活用して自動化が図れます。効率が上がるだけでなく作業の質も安定するため、生産効率の向上につながります。
情報の見える化
DXを進めると、受注から生産、アフターサービスまでの情報を「見える化」することが可能です。例えば、生産ラインのさまざまな数値やデータが可視化されれば、現場のムリ・ムダ・ムラなどの課題を発見できます。課題を改善できれば、業務品質や生産効率の向上が期待できたり、新しい商品の開発などほかの業務に注力できたりするでしょう。
新しい価値の提供
DXの目的は業務の効率化だけにとどまらず、新しい価値の提供につなげ、顧客満足度の向上を目指すことです。
多くの製造企業は、新製品の開発や既存サービスのアップデートなどに時間を費やしたいと考えていますが、人手不足によりリソースが割けません。そこでDXを進めることで、業務を最適化し、新しい価値を生むリソースの確保を目指しています。
ダイナミック・ケイパビリティの強化
ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)とは、環境や状況が激しく変化するなかで、企業がその変化に対応し、自己を変革する能力のことです。「ものづくり白書2020」など、近年政府によるDX関連の資料に引用されるようになり、市場の変化が著しい現代において重視されています。
DXの導入を進めず、かつての強みやビジネスモデルに固着してしまうと、急速に変化する市場に対応できなくなることもあるでしょう。一方、デジタル技術を活用してデータを収集、分析すれば、脅威や危機の感知能力は高まります。
あらかじめリスクを感知できれば、避ける手段をじっくり検討できます。
製造業DXが進まない原因
注目されている製造業DXですが、なかには着手できていない企業もあります。製造業DXが進まない主な理由を見ていきましょう。
属人化が顕著
属人化が顕著なうえ、人手不足が深刻な現場であれば、DXに取り組む時間を確保するのは難しいでしょう。製造業は、専門的な知見や経験を必要とし、職人的なスキルが求められる現場が多いため、属人化しやすい傾向があります。
製造現場の属人化が顕著であるのは、業務内容を共有せず、感覚で進めている人が多いのが一因です。人手に頼っている業務ほど、言語化して課題や改善策を見つけるのが難しいため、前向きに取り組めない企業が多いのが現状です。
業績低迷により資金が準備できない
コロナウイルス感染拡大をきっかけに、必要な資金が準備できずにDXを進められない企業が多くあります。ただし、国や自治体の補助金・助成金を利用して、DXの導入を進められる可能性もあります。金銭的な理由で諦める前に、活用できる制度がないか確認してみましょう。
デジタル分野が得意な人材が少ない
DXを進めるためには、デジタル技術やツールを理解している人材が必要不可欠です。デジタル分野が得意な人材が不足していれば、課題に対し、どのようなツールが効果的かを判断するのが困難でしょう。DXに向けて、デジタル分野に強い人材を育成したり採用したりする体制を整えることが課題です。
変化が見えづらい現場を変える必要がある
製造業は流れ作業と機械化が多く、ITテクノロジーを導入しづらい箇所が多いです。DXを推進していくには、現場の協力が必要不可欠で理解をしていかなければ難しいでしょう。
また変化を伴うには、既存のやり方、業務の流れを手放すポイントも出てきます。変化を強要すれば、生産性を上げるための施策が協力を得られず、溝が深まる可能性が出てきます。
短期間での変化は、一時的に成果が見られることが多いです。しかしながら、ずっと継続していくには高いメンタルと状態を維持しなければなりません。バランスをとりながら、試していく姿勢と施策もある程度必要です。
結果を重視しすぎるあまりに、本来の目的を見失わないリマインドも大切となってくるでしょう。
製造業DXを成功させるための6つのポイント
製造業DXを成功させるためには、デジタル人材の採用や育成、部門間の連携などがポイントです。それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
DXに詳しい人材の採用や育成
DXを成功させるためには、デジタル技術を扱えるDXに詳しい人材を確保する必要があります。即戦力が欲しい場合は、DX人材を採用するのが最適ですが、すぐに適した人材が見つからないケースも考えられます。ヘッドハンティングをしたり、デジタルに強い人材に特化した転職サービスを活用したりするなどの工夫が必要です。
また、DX人材を増やすために、社員を育成する方法もあります。時間や労力がかかる反面、今まで培った自社への理解を活かしてくれる人材に育つことが期待できるでしょう。育成方法としては、座学でのスキル取得や、社外でのDX研修などが挙げられます。
なお、コンサルタントなど外部のパートナーを活用するのも手段の一つです。
段階的に少しずつ導入する
DXは段階的に少しずつ導入しましょう。今までのやり方から大きく変えたり、慣れない設備やサービスを利用したりするのはただでさえ大変です。そのため、一気に新しいシステムを導入すると現場が混乱し、業務に支障が出てしまう可能性があります。
少しずつ範囲を広げ、従業員の負担が大きくならないような進め方を心がけましょう。
部門間で連携する
DX推進は、特定の部門に丸投げするのではなく、経営部門やDXの担当部門、現場の部門が連携して取り組むことが大切です。経営視点や現場視点など、あらゆる方面から「改善すべき課題は何か」「そのシステムは導入して効果があるのか」を検討できると、DXの成功率は高まるでしょう。
具体的な成果を数値で表すこと
成功率を高めるためには、具体的な成果を数値です。数値にし辛いものは、行動目標など「基準」を作ることで、現場がやることが明確になりやすいです。ただし目標を立てることで、達成に執着をしすぎないことが鍵となるでしょう。
目標は「実現可能な数字」を定めることが望ましいです。なぜなら現場が無理と感じた数値では、達成できる気がしない状態になり、ストレスを与え続けることになるからです。
部署目標は個人一人ひとりの達成から生まれてくるものにしていくと、スキルの偏りが出てこなくなるでしょう。
しかしながら、高い目標を達成してこそ価値があるという精神論も出てきますね。そんなときは、ゼロから行動したところに焦点を当てるようにしましょう。
達成感を味わい意欲に結びつけることで、現場は活性化されていきます。認められることは、積み重ねる上で自信につながっていき、現場から新しいアイデアも提案される期待が持てるようになるでしょう。
現場も巻き込んだ総力戦にすること
現場と経営陣が同じベクトルに向かうことが最重要となります。
理屈で効率化、生産性が上がることはわかっていても、現状の業務から変化していきます。たとえ良い影響があったとしても、手間が増えることに目が向いてしまうでしょう。
DXを推進していくと、現場が変化を感じることが多いので長期的に変えていく必要な部分も出てきます。具体的には次のようなところです。
・機械を刷新したときの覚える工数
・社員の変化への対応のケア
社員の心のケアは、根気強く続けることが求められるでしょう。生産性を上げるために、現場の社員は自分の意見を犠牲にしている可能性もあります。
一方でDXを推進する経営側の見方を寛容に持つことも必要になるでしょう。変化といっても経営側は「数字」現場は「作業」の変化というそれぞれの見方に違いがあります。
現場の意見と経営側のズレを修正していきながら、最大限のパフォーマンスを出していくよう心がけることで、意識は統一されてくるでしょう。
製造業DXの進め方
製造業DXの進め方は以下のステップに分けられます。
- DXで叶えたいイメージを共有する
- 体制整備とデータ収集を行う
- システムを導入して効率化する
- ビジネスモデルを変革させる
一つずつ詳しく見ていきましょう。
1:DXで叶えたいイメージを共有する
まずは、DXで「何を改善したいか」「どのような会社を実現したいか」など叶えたいことを決めます。ビジョンが明確でないままDXを進めると、デジタル化をすることが目的になってしまい、新しい価値の創出やビジネスモデルの変革にはつながりません。
経営陣と現場の社員で話し合い、DXで叶えたいイメージを明確にすることが大切です。
2:体制整備とデータ収集を行う
DXで叶えたいイメージを明確にしたら、体制整備とデータ収集を行います。具体的には、DXに詳しい人材を採用または育成し、プロジェクトチームを作ります。人材の採用や育成が難しい場合は、コンサルティングやサポートが受けられるサービスを利用しましょう。
その後は、現場のデータを収集し、作業フローの整理や課題の洗い出しを進めます。活用できそうなシステムや導入事例などのデータも集め、本格的にDXに取り組む準備をしましょう。
3:システムを導入して効率化する
体制が整い、データが集まったら、システムを導入します。導入する際は、目標の達成や課題の解決が見込めそうかを必ず検討しましょう。ここでは、どのような効果が得られるかを確認しながら進めることが大切です。
なお、いきなり業務内容に大きな変化が伴うようなシステムを導入するのは控えるのがおすすめです。段階的に導入することで、現場の混乱を招いてシステム化に嫌悪感を持たれないようにしましょう。
4:ビジネスモデルを変革させる
業務の効率化だけでなく、ビジネスモデルの変革を実現させるまでがDXです。
さまざまな作業フローでデジタル化できる箇所がないかを検討し、業務の効率や品質の向上を繰り返します。今までの業務が見直されれば、組織全体の構造を変えたり、新しい価値を生みだしたりする時間ができます。
DXは、目の前の業務を変えることではなく、結果的に会社全体の仕組みや顧客の満足度にどのような変化をもたらすのかを意識することが大切です。
製造業DXの企業事例
製造業DXの具体的なイメージがつかめていない方もいらっしゃるかもしれません。最後に経済産業省の「製造業DX取組事例集」から、3つの企業事例をピックアップして紹介します。
株式会社今野製作所
株式会社今野製作所は、手動油圧ポンプや油圧ジャッキなどを取り扱う会社です。DXの取り組みとして、自社の業務プロセスやエンジニアリングプロセスの社内連携体制を可視化しました。
背景・課題 | ・受注形態をオーダーメイドに移行したものの、個別受注に対応しきれず納期遅れが相次いだ ・受注生産や見込み生産など多様な生産形態が混在しており、業務プロセスが複雑化 |
取り組み内容 | ・業務プロセスの分析ツールを活用し、業務を可視化 ・業務プロセスの最適化のために、必要なシステムツールを開発し業務改善に活用 |
工夫 | ・知見がなかったため、外部の専門家に相談しサポートを受けた ・似た境遇の中小企業同士でサークルをつくり、積極的に情報交換し知見を増やした ・外部のサポートを受けながら社内人材の適性を見極めた |
成果 | ・生産現場の職人と営業だけの力で成り立っていたことが判明 ・事業に高い付加価値をつけるために製品設計・生産設計へ注力するきっかけとなった ・手動で転記していたデータを自動流用化した ・従来着手できていなかったビジネスを始められた |
今野製作所は、DXを活用して業務プロセスをうまく改善した例です。新しい事業形態を作るときや、従来のやり方に変化を加えるときは、プロの手を借りて進めることを検討してみるといいでしょう。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、既存設備の最大活用やデータ分析の効率化などを目的として「工場IoT」を導入しました。工場IoTとは、工場の生産設備にIoT(Internet of Things:モノをインターネットに接続し活用する手法)を付加し、IoT機能で情報収集することで生産性や品質などの課題の解決に役立てるソリューションです。
背景・課題 | ・製造や顧客から得たデータをすぐに技術開発へフィードバックできていなかった ・非自動車メーカーの勢力が増すなどの市場変化を受け、全社的なデジタル化を検討した |
取り組み内容 | ・工場横断の共有プラットフォームを2~3年かけて段階的に投資 ・製造部門の社員が小規模なテーマを立案、実行した ・人材育成もあわせて進めた |
工夫 | ・社内部署による組織的な教育支援や、BI・AIなどのツールをプラットフォーム上に用意 ・十分にセキュリティ対策がされた環境を構築 ・無駄なデジタル化をせず、費用対効果を重視 |
成果 | ・各現場に工場IoTのプラットフォームを使ったプロジェクトを立ち上げた ・取り組みの数を増やし、トータルで費用対効果を上げた ・品質や商品力の向上などに関連するデジタル化に着手し始めた |
トヨタ自動車は、全社的なデジタル化を視野に入れて工場のIoTを進めました。2〜3年にわたり時間がかかったものの、結果として費用対効果が高く、工場だけでなく商品のデジタル化など着実にDX推進の幅を広げています。
株式会社アイデン
株式会社アイデンは、制御盤専門メーカーとして、電子機器や電子製品の製造業務をメインとする会社です。DXの取り組みとして、IWS(iDEN Wiring Solution)を開発、導入し、生産性の向上を図りました。
背景・課題 | ・主力事業の制御盤製造は、職人の知見に依存していた ・最初から最後まで一人の作業者が生産することもあった ・作業進捗や工程管理は製造担当者任せになっていた ・作業者には経験やスキルが必要で、人材育成に時間を要していた |
取り組み内容 | ・CADベンダーと連携をはかった ・工程ごとに必要な作業を標準化・可視化できるツール(IWS)を開発、導入 |
工夫 | ・工程の一部を機械化し、ベテランの製造担当者は付加価値の高い業務に専念する棲み分けをした ・システムエンジニアを設計専門の担当者として採用し、社内人材の育成を実施 |
成果 | ・フロントローディング(一部の作業を前倒しすること)を実現 ・一部作業の機械化により生産性が向上した ・技能熟練度に応じた柔軟な分業体制の構築、および製造担当者ごとの進捗管理が可能となった ・事前に材料の必要量が把握できるようになった ・海外への進出と市場参入が可能となった |
アイデンは属人化していた業務を可能なものから自動化し、生産性の向上を実現しました。その結果、技術者はより高度な作業に時間を投じられるようになり、さらなる事業の拡大を見据えています。
まとめ
製造業DXは、製造装置や工程のデジタル化を軸に、商品やサービス、ビジネスモデルの変革を実現する取り組みのことです。DXの推進を成功させるためには、デジタル人材の確保や、ビジョンの明確化が重要です。
DXは、新しい設備やサービスの導入を伴うため、従業員の負担が大きくならないように段階的に少しずつ進める必要があります。試験的に導入や操作がシンプルなものを活用してみたいという方は、ぜひDXの最初のツールとしてAI GIJIROKUの利用を検討してみてください。
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