「中小企業のDXを進めるメリットって何?」デジタル分野の重要性が高まっている昨今、このような疑問を持っている方もいるのではないでしょうか。まずは現状の課題と導入の目的を明確にすれば、スムーズにDXの推進ができるでしょう。
そこで今回は、中小企業がDXを進めるメリットや成功事例を解説します。成功させるためのポイントも解説しますので、中小企業におけるDX推進に悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
目次
そもそもDXとは?
DXはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称で、デジタル技術による変革を指します。DXによって変革させるのはビジネスモデルだけでなく、企業文化・風土にまで及びます。そして、今まで以上の利益を出す仕組みを作ることがDXの目的です。
例えば、手動で商品を管理していた会社がAIツールを導入し、業務効率化をはかることはDXの一歩です。さらに踏み込んで、発注管理や顧客管理などの業務フローを一元化できれば、より高い効果が見込めるでしょう。このように、デジタルを活用して企業の変革につなげたケースはDXの成功例といえます。
言い換えると、DXとは進化し続けるデジタル技術を活用して、自社のビジネスを発展させていくことです。
IT化やデジタル化との違い
DXと似た言葉に「IT化」や「デジタル化」などがありますが、明確な違いはありません。強いて違いを挙げるとすれば、DXの目的が「デジタル技術による組織の変革」であるのに対して、IT化の主な目的は「業務の効率化」です。
したがってまずはIT化やデジタル化に着手し、その後にDXを推進していく順番が適切といえるでしょう。企業のビジョンのなかに、どのようにしてデジタル技術を取り入れていくのかがDXのポイントです。
中小企業のDXはなぜ進まない?の現状と課題
多くの中小企業がデジタル化を進める意思はあるものの、導入が滞っているのが現状です。では、なぜ中小企業のDXはうまく進まないのでしょうか。そこには、IT人材不足や資金不足、中小企業の経営者がDXの効果・意義を理解できていないといった課題が存在すると考えられます。
IT人材不足
独立行政法人中小企業基盤整備機構の調査によると、DXの必要性を認識している企業は約8割であり、ほとんどの企業が必要性を感じていることがうかがえます。
ただ、そのなかで「DX推進・検討に着手している」と回答した企業は約2割です。主な取り組み内容はホームページの作成や営業活動・会議のオンライン化が挙げられています。一方で、「取り組む予定がない」と答えた企業は約4割であり、「人材や予算の確保」が課題と回答しています。
多くの中小企業は、ITの専門知識や技術を持ったスタッフが限られているため、DXプロジェクトを進めるのが難しいと感じています。専門知識やスキルを持ったIT人材が不足しているため、新たなテクノロジーを導入し、適切に活用することが難しいのです。
このように、人材不足に陥っている中小企業においてはDX推進のハードルは高く、まだまだ発展途上といえるでしょう。
資金不足
人材と同様に不足していると考えられるのが、資金です。DXプロジェクトにはデジタル機器や設備のアップデートなどに投資が必要です。
しかし、中小企業はリソースや予算が限られており、DXへの資金を確保することが難しい場合が多いと考えられます。特に初期段階でのコストは高くつくため、多くの企業が進んでDXに取り組むことができていないのです。
効果や意義を理解できていない
そもそもDXの必要性を感じていない企業においては、紙文化が根強くデジタル化に抵抗があったり、DXで得られる効果を理解できていないというケースがあります。
リソースが限られている中小企業においては、DXを進めることで得られるリターンが不透明だと、導入にはなかなか踏み切れないでしょう。このケースでは組織的な改革が必要であるため、経営陣をはじめ社内全体でDXのメリットや成功事例について学び、理解しなければならないと言えます。
中小企業がDXに取り組む必要性とは?
中小企業がDXに取り組むべき理由は、「2025年の崖」と呼ばれる問題と「電子取引データ保存の義務化」この2つの対応が求められるからです。
1つ目の理由は、DXを推進しなければ、2025年から2030年にかけて国内で年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるためです。この問題は、経済産業省が発令した文書内で「2025年の壁」と呼ばれています。
文書の発令直後は「DXは大手企業が中心となって取り組むもの」という考えが普及していましたが、現在は企業規模に関係なくDX化が求められています。
2つ目の理由は、2022年1月の「電子帳簿保存法の改正」に伴い、電子取引データ保存の義務化への対応を余儀なくされたためです。具体的にはタイムスタンプの導入や契約の電子取引、データのオンライン上の保存などが推奨されています。
遅くとも電子取引データ保存が完全義務化される2024年までには、各社ともデジタル化を進める必要があるでしょう。
中小企業がDXを進めるメリット
DXを進めると、業務の効率化や生産性向上、事業の拡大など多くのメリットがあります。ここからは、中小企業がDXを進める4つのメリットを紹介します。
業務効率と生産性の向上が期待できる
中小企業がDX化を進める代表的なメリットは、業務の自動化により効率と生産性の向上が期待できることです。
例えばバックオフィス部門でDX化を進め、定型業務をはじめとする多くの業務が自動化されれば、人手に頼っていた仕事にかかる時間を削減できます。また、定型業務がデジタル化されるとヒューマンエラーが減り、仕事の品質を維持しやすくなります。
各部門でDXを進め、業務の効率化を図れば会社全体の生産性の向上につながるでしょう。
人材を確保しやすくなる
DX化が進み、業務フローが効率化されると働き方にも変化が生まれます。子育てや介護など従業員の事情に合わせて対応できるようになれば、優秀な人材を囲い込むことが可能です。
また「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代やミレニアム世代は、業務のデジタル化が進んでいるかどうかで企業を選んでいます。例えば、企業内のDX化が進んでいないと、会社の将来に不安を抱き、転職するケースも増えています。若い世代が働きたいと思える会社に育てるためにも、DXの推進は欠かせません。
必要なデータをすぐに確認できる
災害や感染症の影響により世の中の変化が予測しにくい現代では、いかにスピーディーに現状を把握し迅速に判断できるかが、市場競争のなかで生き残るカギとなります。そのような状況下において、手作業でデータを収集・分析し続けるのは得策ではないでしょう。
DXにより企業内のデータを自動的に蓄積・管理できれば、必要な情報を迅速に集め、分析することが可能となります。必要なデータをすぐに確認し分析できれば、タイムリーな経営判断につなげられます。
新しいビジネスに取り組める
中小企業や小規模事業者でも、業務の効率化が進めば、新しいビジネスに取り組めます。多くの企業は、新商品や新サービスの開発に取り組みたいと考えていますが、人手不足によりリソースを割けないのが現状です。そこでDXを進めることで、人手に頼る業務を削減でき、新しいビジネスを検討するリソースの確保が可能となります。
企業の生存率を伸ばせる
業務の効率化や生産性のアップ、人材確保はすべての企業が生存し続けるうえで欠かせません。DXの推進により、人材確保などの問題が解決するだけでなく新しいビジネスモデルに取り組めるようになれば、市場競争で生き残れる強みを得られるでしょう。
2020年以降、新型コロナウイルスの影響で多くの中小企業や小規模事業者が経営難に苦しんでいます。経営者にとって企業が生存し続けることは、永遠の課題です。DX化によってスピーディーな経営判断ができるようになる体制作りも、企業の生存率を伸ばすうえでは欠かせません。
中小企業がDXに取り組む際の進め方
中小企業がDXに取り組む際の進め方は以下の通りです。
- 経営者による戦略策定
- 全社を巻き込んだ変革準備
- 社内のデータ分析・活用
- 顧客接点やサプライチェーン全体への変革の展開
経済産業省の文書に沿ってそれぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
1.経営者による戦略策定
まず、経営者によるビジョン・戦略を作成します。会社の理念に基づき、DXチームの設置や推進体制を整えましょう。ここで大切なのは、5年・10年と長い目で見たときに「DXを通して企業をどう成長させるか」を検討することです。
DXという言葉だけが先走り、デジタルツールの導入などテクニック面の変革だけにならないよう注意しましょう。
2.全社を巻き込んだ変革準備
次に全社を巻き込んだ変革の準備に入ります。DX推進のためのチームを中心として、データ活用に向けた取り組みを行いましょう。ポイントは一部社員だけでなく、全社を巻き込み、社内全体を活発化させることです。
経営者は各部門長とよく話し合って、ビジョンを社内に浸透させましょう。デジタル分野に詳しい人材が社内にいない場合は、必要に応じて新たな人材を採用することもひとつの手です。
3.社内のデータ分析・活用
3つ目のステップはデータの分析と活用です。まずは、DX推進の前提となる業務プロセスを見直すことから始めましょう。人の手で作業しているものや、電子化できそうな仕事はデジタル化することをおすすめします。
デジタル化を始めたら、その後の数値の変化を記録して成果が出ているかどうかも確認しましょう。ここでPDCAを回すことが、DXの効果の最大化につながります。
4.顧客接点やサプライチェーン全体への変革の展開
4つ目は顧客やサプライチェーン全体への変革の展開です。徐々に始めて成功したプロジェクトをもとに、デジタル化を社内外に広めていきます。この段階では内部人材の育成も積極的に行うと、変革スピードが上がっていきます。構築したシステムを運用して、顧客に新たな価値を提供できれば、DX化が進んだといえるでしょう。
参考:中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き 経済産業省
中小企業DXを成功させるポイント
ここからは、経済産業省が発表した「デジタルガバナンス・コード 実践の手引き」から、中小企業DXを成功させるポイントを3つ解説します。スムーズに導入できるか不安を抱えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
身近なところから着手する
DXの導入事例を検証すると、身近な取り組みから着手して、徐々に範囲を広げていった企業がほとんどです。詳しい例はのちほど紹介しますが、個別業務のデジタル化や既存データを活用してノウハウを蓄積し、人材育成を進めながら取り組みを拡大した企業があります。
このように、DXでは小さな取り組みをきっかけとして、ビジネスモデルや業務プロセス全体の見直しに向けた戦略を修正します。そして徐々にステップアップし、組織全体の変革へ移ることが成功のカギとなるのです。
デジタル人材を確保する
DXをスムーズに進めるには、デジタル人材を確保・育成する必要があります。必要に応じて専門部署を設けることも大切です。しかし、初めから自社内で人材を確保するのは中小企業にとっては高いハードルです。
自社内で人材確保が難しい場合は、ITベンダーやITコーディネーターなど外部の機関のサポートを受けましょう。デジタル人材の育成には時間がかかってしまうため、外部の力をうまく活用してノウハウを蓄積することも大切です。
長期的に取り組む
DXはビジネスモデルや組織の変革が目的であるため、システムの導入により業務上の問題が解決すれば完了というわけではありません。経営者のリーダーシップの下で、5~10年後にどうなりたいかというビジョンを明確にして、地道に進めることがポイントです。
DXを推進するには業務プロセスの洗い出しから、ビジョンに沿った課題選定や解決策の模索、人材の育成など長い時間を要します。長期的なビジョンを明確にしたうえで予算と時間を投じると、ビジネスモデルや組織の変革に向けたDXを推進できるでしょう。
補助金などの支援策を活用する
「IT導入補助金」や「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」など、政府や自治体がDXに使える補助金を出しています。資金面での不安を抱えている企業は、こうした支援策を活用するのも1つの方法です。
DXに使える補助金は、導入時期や導入予定のツール・システム・機器、企業規模などによって異なりますので、検討段階で自社に合うものを調べてみてください。
中小企業DXに補助金を活用するメリットと注意点
補助金を活用してDXを進めることは、メリットもありますが注意しなければならない点もあります。
メリット
まずは中小企業がDXに補助金を活用するメリットについて解説します。
金銭的なコストを減らせる
補助金を中小企業のDX推進に活用する最大のメリットは、その金銭的なコスト削減にあります。補助金は融資と異なり、返済の必要がないものが多いため、中小企業は新たなプロジェクトやテクノロジーの導入に伴う資金調達の負担を軽減できます。
融資が受けやすくなる
補助金の採択審査に通る企業やプロジェクトは「国や自治体から認められたものである」と金融機関からみなされるケースが多く、金融機関からの信頼性が高まります。そのため、通常よりも有利な条件での融資が可能になると考えられます。
このメリットは、中小企業にとって大きな利点となります。融資を受ける場合、通常は高い金利や厳しい審査基準が課されることがありますが、補助金を活用することでそのリスクを軽減できるのです。
注意点
続いては、中小企業がDXに補助金を活用する際に注意しておくべき点について解説します。
事務処理の手間がかかる
補助金を受けるためには、補助金の申請手続きや報告が必要となります。これらの手続きは、企業内での文書作成やデータ収集、審査委員会への提出など、一定の事務作業が伴います。
こうした事務処理に伴う手間の増加は、人材や予算に限りがある中小企業においては、大きなコストにもなり得ます。事務処理の手間と補助金のメリットを比較して、補助金を活用すべきかどうかよく検討すべきだと言えます。
必ず交付されるわけではない
補助金の中には審査が必要なものもあります。そういった補助金プロジェクトにおいては、申請をしても一定の基準を満たさなければ補助金が交付されません。
このように審査が必要な補助金の場合は、申請にかかる事務処理の手間をかけても必ずしも交付されるわけではないという点は、念頭に置いておくべきだと言えるでしょう。
原則として後払いのものが多い
補助金の交付は原則として後払いのものが多く、申請した取り組みが終わった後にプロジェクトの内容を報告してから交付される、といったケースがほとんどです。そのため、一旦は自社で資金を立て替える必要があります。
中小企業がDX推進に補助金を活用する場合は、後払いの仕組みを理解し、事前にキャッシュフローと資金計画を検討しなければなりません。また、プロジェクトの内容についての報告には正確な情報提供が必要です。適切な記録と文書化を行うことも忘れないようにしましょう。
中小企業のDX事例
DXを成功させるためには、モデルケースを踏襲することも有効です。ITの導入やシステムの改善によって、DX化を進めた中小企業の事例を3つ紹介します。
株式会社ヒバラコーポレーション
株式会社ヒバラコーポレーションは、創業55年を迎える塗装業を営んでおり、業界内で最も早く IT の導入に取り組みました。最初に行ったのは「技術のデータ化」です。継承が難しい職人の技術を数値化し、本人以外の技能者が再現できるようにしました。
また、塗装にかかわる全作業をデータにして「見える化」することで、コストダウンや誤発注の防止、管理時間の削減につなげました。
さらに、上記の取り組みを通して得たDXのノウハウを、あらゆるメーカーの塗装部門に提案するコンサルティング事業も展開しています。自社の成功例を横展開し、新たな事業を始めた好例といえるでしょう。
株式会社竹屋旅館
株式会社竹屋旅館は、JR清水駅前で「ホテルクエスト清水」を運営しています。清掃業務の外注化に限界を感じたため、デジタル技術を使った清掃業務の内製化に取り組みました。
まずは業務を数値化し、成果目標を「清掃時間の短縮とお客様満足度向上」と明確に設定。次に清掃作業の能力が高い人を「匠」として動画化することで、再現性の高いマニュアルの作成に成功しました。また、チャットツールを通じて従業員同士の清掃情報の共有を図りました。
実践した結果、清掃時間が減って接客の質も上がり、お客様満足度として口コミの評価点数もアップしています。DXを使ってマニュアルを作成し、サービスの質を向上させたモデルケースのひとつです。
東洋電装株式会社
東洋電装株式会社は、制御盤等の製造を営んでいる会社であり、大企業との競争に打ち勝つために生産性の向上に着目しました。最初に行ったのは、誰でもできる作業と高度な知識や技術が求められる作業の分類です。次に該当する作業をデジタル技術に置き換え、製造効率の向上を図りました。
また工場内に設置したカメラで作業者の動きを録画し、生産管理システムと連携して作業状況のデータ収集と見える化も実現しています。これらのデータに基づき、想定よりも時間がかかっている作業を分析し、人員配置やプロセスを組み替えることでコストを削減しました。
DXに必要な現状の把握と、自動化できる作業をひとつずつ効率化してDXにつなげていった事例といえます。
まとめ
DXとは進化し続けるデジタル技術を活用して、自社のビジネスを発展させることです。経済産業省のレポートからもわかる通り、DXの推進は業務の効率化や生産性の向上だけでなく、企業が存続するうえで欠かせないものといえるでしょう。
中小企業がDXを成功させるためには、身近なところから着手し、長期的に取り組むことが大切です。何から導入するべきか悩んでいる方は、会議の議事録の効率化が図れる「AI GIJIROKU」もぜひチェックしてみてください。
AI GIJIROKU ブログ編集部です。議事録や、会議、音声を中心に生産性を向上するためのブログを執筆しています。