昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に力を入れる企業が増えてきています。日本の経済をけん引する金融業界においても例外ではなく、顧客ニーズの高度化や社会課題の解決のためには、DX化が急務とされています。
しかし、金融業界におけるDX推進にはまだまだ課題も多く、その効果を最大限に発揮できているとは言い切れません。そんな中、DXを推進できなかった場合に懸念されるリスクを指す「2025年の崖」は、目前に迫ってきています。
この記事では、金融業界におけるDXとはどういったものを指すのか、必要な施策や現状と課題についても解説します。これまでに行われてきた取り組み事例についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
金融DXとは?
まずは金融DXとはどういったものなのか、その概要から見ていきましょう。
金融業界におけるDX
近年一般的になってきた「DX」とは、ビッグデータやデジタル技術を活用することで、業務プロセスやビジネスモデルなどを変革させることを指します。業務の効率化だけでなく、顧客のニーズに応える価値を提供することも、DXの目的の1つとされています。
金融業界におけるDXは、金融に関わる業務やサービスのデジタル化と、それを活用して業務改革を行うことを言います。最新のデジタル技術で業務プロセスやサービス、顧客体験、従業員体験を変革させ、さらには複雑・高度化する顧客のニーズに対応する新たな価値を提供するのが、金融DXであると言い換えられるでしょう。
フィンテック(FinTech)とは
DXの取り組みの中でも、金融業界には「フィンテック」と呼ばれるものがあります。これは金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスとIT技術を組み合わせた、新たなサービス・商品の開発などの革新的な動きのことを指します。
キャッシュレス決済や仮想通貨もその一種で、今後も新たなサービスを生む動きが加速していくと考えられています。
金融DXが推進される背景
ではなぜ、金融DXを進める必要があるのでしょうか。その背景について探っていきます。
2025年の崖
金融業界の既存のITシステムには、DXのための大幅な修正が難しいシステムも多く、新たなシステムへの切り替えが困難であるという企業も少なくありません。
しかしこのままDX推進が上手く進まないままだと、2025年を境に既存のシステムが停止したり、メンテナンスが行き届かずセキュリティが脆弱になってしまうことも考えられます。経済産業省は、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるという資産を出しています。
この大きな課題が「2025年の崖」と呼ばれるものであり、こうした問題を解決するためには、システムの刷新と早急なDX化が必要となるのです。
顧客ニーズの変化
インターネットやデジタル技術が進歩したことで、顧客のニーズも大きく変化しています。顧客は金融機関以外の利便性の良いアプリやサービスに触れ、スマートフォンひとつでさまざまな情報にアクセスできるようになっています。
金融機関のサービスに対しても利便性を求めるのは、必然と言えるでしょう。金融DXが推進される背景には、こうした顧客ニーズの変化もあると考えられます。
IT人材不足
少子高齢化が進み、労働力不足が深刻な問題となりつつある日本。IT業界における人材不足も同様で、経済産業省の試算によれば、2025年には約40万人のIT技術者不足が発生する見込みになっています。社会のデジタル化に伴い増加するであろうIT人口を加味しても、IT技術者は大幅に不足すると考えられています。
IT人材不足の中で、既存のシステムが老朽化すると言われている「2025年の崖」を迎えてしまうと、金融業界だけでなく日本の経済にも大きな影響を及ぼしかねません。そのため、一刻でも早くDX化を進めなければならないのです。
金融DX推進に立ちはだかる課題
しかし、金融DXの推進には多くの課題があります。
既存のシステム改修にコストがかかる
金融業界で使われている既存のシステムは、各金融機関ごとにカスタマイズされた大規模かつ複雑なものがほとんどです。拡張性や保守性の面で問題を抱えるレガシーシステムであることが多く、大幅な変更・修正を行うには膨大なコストがかかるため、DX化が進まないという課題があります。
このままでは今後、メンテナンスを行う技術者が引退していなくなったり、既存システムに使用している部品の調達ができなくなったり、といった問題も出てくるでしょう。このことからも、レガシーシステムからの脱却とビジネスモデルの変革は、急務だと言えます。
セキュリティ上のリスクがある
金融機関が取り扱う情報は、顧客の資産に関するものを含む個人情報です。既存のシステムも、金融商品や顧客の資産を守ることを第一にしていたが故に、アクセスできる担当者が限られる閉じられたシステムとなっていました。
DX化に向けて新たなシステムに移行する場合も、当然ながら強固なセキュリティが求められます。さらに、旧システムから新システムへの移行にも細心の注意を払わなければならず、セキュリティ面で大きなリスクが伴います。
こうした懸念がDXシステム構築の足かせとなり、金融業界のDX推進に立ちはだかる障壁となっているのです。
新規参入企業に打ち勝つ競争力が必要
DX化を進める中で求められるのは、業務効率化だけではありません。現在の金融業界は、スタートアップ企業や異業種企業が参入して利便性の高いサービスを提供するケースも増えており、競争が激化しています。
こうした新規参入企業が人気を博しているのも、DX化した新しいサービスが評価されているからだと言えます。既存の金融機関が行うDXには、顧客のニーズに応え、新規参入企業に打ち勝つための競争力も求められるのです。
しかし、競争力の高いサービスやシステムを生み出すのは簡単なことではないため、DX化のハードルも高くなってしまうのだと考えられます。
IT人材の確保
IT人材不足も、金融DX推進の障壁となっています。DX化を進めるためには、新しいシステムの構築ができるのはもちろんのこと、既存のシステムや金融業務に関する知識も持っている人材が必要です。
昨今、日本では人材不足が叫ばれています。IT人材についても例外ではなく、金融DX推進に適切な人材を外部から確保するのは難しい状況となっています。そうした人材を育成するとしても、短期間では育成できないでしょう。「DX化を進めたいが、できる人材がいない」というのは、どの業界においても大きな課題となっているようです。
金融DXにはどんな施策が必要?
では、金融DXにはどのような施策が必要なのでしょうか。実施すべき施策の案としては、次のようなものが挙げられます。
クラウド導入
オンプレミス型での運用が多いレガシーシステムからの脱却とあわせて取り組みたいのが、クラウドシステムの導入です。
クラウド上で口座を管理するインターネットバンキングは、今や広く一般的なシステムになってきました。平日の日中にしか店舗を利用できない銀行などでは、インターネットバンキングのように、手続きや申し込みをオンライン上で完結できる仕組みが必須と言えます。対面による受付業務が減り、従業員の業務負担軽減にもつながるでしょう。
クラウドシステムの導入は、顧客のニーズに答えながら、従業員の業務効率化やコスト削減も見込める施策です。
ペーパーレス化
クラウドシステム導入と並行して取り入れられるのが、ペーパーレス化です。昨今では金融業界に限らず、さまざまな業界で書類のペーパーレス化が推進されています。これまで紙で管理してきた書類や資料を電子データとして活用・保存することは、DXの基本とも言えるでしょう。
ペーパーレス化のメリットとしては、コスト削減や業務効率化、多様な働き方への対応といった点が挙げられます。書類や資料を紙で運用するためには、紙代や印刷コストがかかる上に、保存しておくスペースも必要です。
電子データをサーバーに保存する場合、こうしたコストは不要です。また、オフィスにいなくてもアクセスが可能になり、テレワークなどの多様な働き方に対応できるようになります。電子データは紙と違ってファイル名での検索も簡単にでき、業務効率化にもつながるでしょう。
AI技術の導入
AI技術の導入もDXとしては一般的で、もはや無くてはならない存在になりつつあります。金融業界においては、たとえば顧客からの問い合わせ対応の自動化や、融資の審査、不正利用の検知など、従業員が手動で行っていた業務負担の軽減に役立つでしょう。
顧客からの意見や購買履歴をはじめとしたビッグデータを収集・分析するのも、AI技術の主な活用方法です。収集したデータを分析することで顧客のニーズを洗い出し、新たなサービス開発につなげたり、商品提案や潜在顧客の発見に役立てることもできます。
RPAの活用
RPAとは「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略称です。PC上で行う単純作業やルーティンワークを、AIやルールエンジンなどを活用したソフトウェアのロボットが学習し、自動化する取り組みのことを指します。
これまで人力で行っていたチェック作業や書類作成などの定型的な業務に関しては、RPAを活用して自動化すると、従業員の業務負担を軽減することができます。日々の業務に追われて、新規サービスの開発や既存システムの改善に人員を回せていない企業では、RPAが大きな効果を発揮することでしょう。
生体認証の活用
近年、パスワードに代わる本人確認の認証システムとして、生体認証が身近なものとなってきました。顔・指紋・静脈・虹彩などによる生体認証技術は、金融業界でも導入されつつあります。
ただし、認証精度の高い虹彩認証や、生体情報が盗まれにくくセキュリティ面での安全性が高い静脈認証は、機器コストが高く導入しづらいのが問題です。比較的低コストで導入できる顔認証や指紋認証は幅広い業界で活用されており、金融業界においても導入が進んでいます。
最近では、クレジットカード情報などと生体情報を紐づけてキャッシュレス決済を行う、「生体認証決済」にも注目が集まっています。生体認証はパスワードよりもセキュリティ面での安全性が高く、顧客の求める利便性向上にも役立ちます。金融DXにおいて、ぜひ取り入れたい施策の1つだと言えるでしょう。
金融業界におけるDXの取り組み事例
最後に、金融業界におけるDXの取り組み事例をご紹介します。優れたデジタル活用の実績が表れている企業を公表する「DX銘柄」に選定されている企業の事例もありますので、ぜひ参考にしてください。
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社では、フィンテック機能を活用したビジネスモデルとして、「東海東京デジタルワールド」と呼ばれる独自のDXプラットフォームを展開しています。その目的としては、主に次の3つです。
1つめは、フィンテック機能の融合による新たなサービスの創出です。資産管理アプリ「おかねのコンパス」などのデジタルサービス機能を提供するとともに、そこから得られたデータを活用したマーケティングにより、協業パートナーが相乗的にサービスを提供しあう「デジタル金融のエコシステム」の構築を目指しています。
2つめは、地方創生への貢献です。ブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨の発行や、クラウドファンディングの提供などによって、地域経済の活性化およびDX化を図ります。
3つめは、パートナー企業や地方自治体との連携です。東海東京フィナンシャル・ホールディングスが持つデジタル機能の活用・提供によって、金融ビジネスへの参入を狙う企業との協業や、デジタル化を進める地方自治体への機能提供を行っています。
こうした広範かつ多様なニーズに対してDXで応える動きが認められ、東海東京フィナンシャル・ホールディングスは「DX銘柄2022」に選定されました。
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
九州を地盤とする地域金融グループのふくおかフィナンシャルグループでは、2021年5月にデジタルバンク「みんなの銀行」を開業しました。
デジタルバンクは、既存の銀行業務をオンライン上で行うインターネットバンキングとは異なります。銀行に関わるすべてのサービスをスマートフォン上で行えるのが、デジタルバンクです。デジタルネイティブ世代を主なターゲットとして、優れたUI・UXのシステムを目指しているのも特徴の1つだと言えます。
ふくおかフィナンシャルグループでは、「みんなの銀行」をDX推進のドライバーと位置付けて、“お客様本位”を徹底的に追求したDXを実施しています。デジタル技術を活用して新しい価値・体験を提供し、未来を豊かにする取り組みが評価され、「DX銘柄2022」に選定されました。
株式会社伊予銀行
愛媛県を中心に展開する地方銀行の株式会社伊予銀行では、DXの取り組みとして、3つのサービス「AGENT」「HOME」「SAFETY」を企画・開発しました。
- AGENT:銀行手続きアプリ。スマートフォンでのビデオチャットを用いて、自宅にいながら銀行窓口と同じ体験ができる。
- HOME:来店不要で住宅ローン手続きができる、住宅ローン専用アプリ。購入物件が決まっていなくても、最大借入可能額の目安が3分でわかるシミュレーションサービスや、住宅関連業者向けサービスも。
- SAFETY:カードローンアプリ。伊予銀行だけでなく、他の金融機関の預金残高や入出金予定、クレジットカードの引き落とし額の情報を取得し、残高不足予測を知らせるサービス。借り入れが必要なタイミングの把握に役立つ。
こうしたサービスは、従業員の業務負担削減につながるだけでなく、顧客の待ち時間減少にも役立っています。
株式会社福島銀行
福島銀行は、2022年7月に東日本の地方銀行として初めて、AIを実務導入しました。これはSBIグループが資本業務提携する、地方銀行に対して提供したプログラムの成果だとされており、2021年12月から約半年という短い期間でのAI実務導入を実現しました。
この取り組みでビッグデータやAIを活用することによって、福島銀行は営業スタイルの高度化に成功しています。これまでは営業員の知識や経験に頼った提案が主だったのに対し、データに基づく多角的な視点を取り入れることができ、より顧客のニーズに即したタイムリーな提案が可能になりました。
その結果、個人向けローンの電話によるセールスの成約率が向上しています。業務効率化だけでなく、顧客のニーズに応える価値を提供し、企業の利益にまでつながっているDXの事例だと言えるでしょう。
まとめ
金融機関のITシステムには、DXのための大幅な修正が難しいレガシーシステムが多く、DX化がうまく進んでいない現状があります。しかし、迫りくる「2025年の崖」に対応しなければ、金融業界は停滞し日本経済にも大きな影響を及ぼしてしまうと考えられます。
顧客のニーズが高度化・複雑化していることや、今後もIT人材不足が続くことを考慮しても、金融DXは早急に取り組むべきものだと言えるでしょう。
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