AI技術の精度向上のためには、質の高い教師データが欠かせません。教師データとは、機械学習において人間が作成した正解データのことで、AIが学習するための基盤となるものです。
この記事では教師データと機械学習の関係性や、データの収集・作成方法について解説します。教師データ作成の際に注意すべきポイントについてもご紹介しますので、AIを導入して業務効率化やコスト削減を目指そうと考えている方は、参考にしてください。
目次
教師データとは?
教師データとは、機械学習において利用する正解データのことです。入力されたデータに対して「これが答えです」といったように、対応した正解(ラベル)が用意されているもののことを教師データと言います。
例えば、花の写真に対して「これは花です」とラベリングすると、それが教師データの1つになります。機械学習モデルでは、膨大な量の正しいデータを学習することで、未知のデータに対しても正しい予測を行えるようになるのです。AIの精度向上のためには、質の高い教師データを多数確保する必要があります。
教師データと学習データの違い
学習データとは、教師データを含む「機械学習において、学習のために使用されるデータ全般」のことを指します。学習データの中でも、対応する正解ラベルがつけられたものが、教師データと呼ばれます。
教師データ・学習データともに、機械学習の精度向上には欠かせないものです。品質と量を確保した教師データや学習データを与えて学習させることで、AIはより正しい予測が可能になり、回答を出しやすくなります。
教師データと機械学習のパターンの関係
教師データと機械学習にはどのような関係があるのでしょうか。ここでは、機械学習のパターンについて解説します。
教師あり学習
機械学習に教師データを使用するのは、「教師あり学習」と呼ばれる学習パターンです。教師あり学習とは、その名の通り教師データをもとに学習する機械学習パターンのことを指します。あらかじめ正解となるラベルが付与された教師データを用いて、機械学習モデルを訓練する方法です。
例題(データ)とそれに対応する正解(ラベル)で構成された教師データを与えて、機械学習モデルに正解を学習させるのが、教師あり学習です。教師データを大量に与えて学習させることで、新たなデータが与えられた時にも、AIのアルゴリズムが結果を予測して出力できるようになります。予測精度を上げるためには、質の高いデータが必要とされます。
教師なし学習
「教師なし学習」は、ラベル付けがされていない(正解が与えられていない)状態のデータを学習させる学習パターンです。AI自身がデータ内の類似パターンを見つけ出し、データを分類します。
教師なし学習は、データの類似性をもとにグルーピングを行う「クラスタリング」や、データを特徴づける情報を抽出する「次元削減」などに活用されます。特にデータに対する正解・不正解が存在しない場合に効果を発揮するのが、教師なし学習です。
強化学習
「強化学習」は、AIが与えられたデータをもとに試行錯誤し、能動的に学習を行う機械学習パターンです。強化学習では学習の対象となるAIやコンピューターのことを「エージェント(学習者)」、評価を報酬と呼びます。
エージェントは与えられたデータをもとに、報酬を獲得するための試行錯誤を繰り返し、報酬を最大化するにはどう行動するべきなのかを学びます。強化学習はAI自身が行動を改善しながら学習していくため、教師データは必要ありません。学習パターンとしては、より人間に近い方法だと言えます。
教師データの取得方法
教師データを取得・作成するには、様々な方法があります。ここからは、企業における教師データの集め方の一例をご紹介します。
自社に蓄積されているデータを利用する
自社に蓄積されているデータを利用して教師データを作成するのも、1つの方法です。社内に蓄積されているデータには、文書データや画像データ、顧客データ、売り上げデータなど様々なものがあります。それぞれのデータにラベル付けを行うことで、教師データとして活用することができるようになります。
自社のデータを活用してAIに学習させられるので、より自社の業務に合った学習結果が期待できるでしょう。ただし、データ量が不足している場合は、外部からもデータを収集する必要があります。
アンケートやクラウドソーシングを利用する
メールや街頭で行ったアンケートの結果を活用して、教師データを作成することもできます。SNSやクラウドソーシングで顧客へアンケートを行えば、比較的簡単かつ迅速に大量のデータを収集することができるでしょう。例えば、商品やサービスのレビューや評価を集めることで、商品の好みや特徴を学習するためのデータを収集することができます。
ただし、回答者のバイアスや質問の偏り、不適切な回答などが問題となる場合がありますので、収集したデータの品質管理には気を付けましょう。正確で一貫性のあるラベル付けができるように、アンケート項目の作成段階から注意しておくことが必要です。
データセットを利用する
教師データの作成には労力・時間ともにコストがかかりますし、専門知識も必要です。また、ある程度の質と量も求められます。効率的に質の高い教師データを収集するためには、データセットを購入して利用するのもよいでしょう。
教師データの販売やデータ作成代行を行っている事業者もあります。そうした事業者に依頼する場合は別途費用が発生しますが、準備にかかる労力・時間を削減できるメリットがあります。自社の状況に合わせて、必要に応じて活用しましょう。
教師データの作り方とは?アノテーションの方法
教師データを自社で作成する場合、画像やテキストなどのデータを集めたら、アノテーションを付与する作業を行います。アノテーションとは、データに注釈やタグ付けを行うことで、そのデータに関する情報を補完することを指します。
では、そのアノテーションはどのように行えばよいのでしょうか。ここからは、自社で教師データを作る際に必要なアノテーションの方法について解説します。
画像・動画データの場合
画像や動画データのアノテーションには、次のような方法があります。
- バウンディングボックス(物体検出):物体の位置を四角形で囲み、「車」「店」「看板」「人」などのラベルを付与します。
- セグメンテーション(領域抽出):画像内の領域を抽出し、線で囲んだり内部を塗りつぶしたりして、「この領域は道路」「この領域は海」といったようにラベルを付与します。
- ポリゴンセグメンテーション(多角形での領域指定):物体の形状を多角形で囲み、ラベルを付与します。バウンディングボックスよりも細かい精度が求められる場合に使われます。
- ランドマークアノテーション(目印検出):物体のパーツを点で示す方法です。人物の顔の認識によく使われるアノテーションで、顔の場合は目・眉・鼻・口・輪郭などを指定する形で行います。
- 画像分類:画像に対してラベルを付与し、分類ができるようにします。例えば「どのような色か」「どのような形か」「人であるかどうか」「車であるかどうか」などのラベリングを行うことで、効率的に分類が行えます。
テキストデータの場合
テキストデータのアノテーションには、次のような方法があります。一般的に、文書内に出てくる特定の単語やフレーズにラベルを付けて抽出・分類していくのが、テキストデータの場合のアノテーションです。
- 固有表現抽出:人名や組織名、地名など、固有表現を抽出してラベルを付与します。
- 文書分類:テキストが属するカテゴリごとに分類し、ラベルを付与します。例えば、スパムメールかどうかを判定するのもその1つです。
- 意図分類:テキスト作者の意図に沿って分類し、ラベルを付与します。何についての話題かを判断してラベリングすることで、テキストの判別が行いやすくなります。
- 意見抽出:テキストデータから人の観点や意見を抽出し、そのトーンがポジティブ・ネガティブであるかなどを判定してラベルを付与します。
音声データの場合
音声データのアノテーションには、次のような方法があります。音声内の特定の言葉やフレーズ、音声の区切り、発話者の情報などをラベル付けしていきます。
- 発話区間の検出:音声データ中で発話された部分を検出する方法です。音声の周波数やエネルギーなどを分析し、発話と非発話の区間を判定します。
- 発話者の識別:音声データ中で複数の人物が発話している場合に、それぞれの発話を識別する方法です。一般的には、話者の声質や発話スタイルなどを分析して、識別することが行われます。
- 意味ラベルの付与:特定の言葉やフレーズに、「何の話をしているのか」といった意味的なラベルを付与する方法です。
教師データ作成時のポイント
教師データの品質は機械学習の精度に直結するため、データの品質管理は非常に重要です。高品質なデータを用意するため、教師データ作成時に注意すべきポイントについて解説します。
目的を明確にする
教師データ作成時に重要なポイントの1つが「目的を明確にすること」です。何のためにそのデータを収集するのか、どのようなタスクに使うのかを明確にすることで、収集するデータの種類や量、品質などを決めることができます。また、目的を明確にしておけば、後に機械学習モデルの評価や改善につなげることもできるでしょう。
データの品質と量を確保する
データの品質と量を確保することは、教師データの作成において非常に重要です。品質の良いデータを利用することで、モデルの精度が向上し、結果として正確な予測が得られます。また、データの量が不足していると、モデルの汎用性や信頼性が低下する可能性があります。
データの品質を保つためには、正確なアノテーションやデータの検証を行う必要があります。量を確保するためには、複数のデータソースを利用したり、データ拡張技術を活用するなどの工夫が必要です。質の高いデータを十分な量収集できるようにしましょう。
アノテーションの一貫性を確保する
複数人でアノテーションを行う場合、アノテーターによってアノテーション結果が変わってしまう可能性があります。アノテーションの一貫性を確保できるように、作業の前にルールを明確にし、疑問点や不明点がある場合には、専門家に相談できる仕組みを整えることが大切です。
また、アノテーターのトレーニングや、作業中のフィードバックを行うことも、一貫性の確保に役立ちます。
データに偏りが生じないように注意する
データに偏りが生じると、機械学習の結果に影響が出る可能性があります。例えば、教師データとして利用する画像に、ある特定の地域でしか撮影されていない写真が多く含まれていた場合、その地域以外のデータに対する認識精度が低下することが考えられます。
このような問題を避けるためには、できるだけ多様なソースから収集したデータを取り扱うように心がけましょう。また、偏りが生じたデータを取り扱う場合には、その影響を抑えるために、偏ったデータを削除したり偏りの少ないデータを増やしたりして、データのバランスを調整して対策を講じましょう。
プライバシーや著作権に注意する
教師データを収集する際には、プライバシーや著作権に注意することが重要です。顧客データなどを取り扱う場合は個人情報の匿名化や保護を行ったり、他人の著作物を使用する場合には著作権の侵害にあたらないよう注意したりと、配慮が求められます。オープンソースのデータセットを利用する際は、ライセンスに従って利用しましょう。
これらの問題については、事前に法律やライセンスに関する知識を深め、適切に対処することが求められます。
まとめ
教師データは、AIの機械学習に欠かせないものです。質の高い教師データで機械学習を行うと、日々進化するAI技術の精度をさらに向上させ、業務効率化にも大きく役立たせることができるようになります。
教師データの作成方法は様々ですが、正確で精度の高い機械学習を行うためには、いずれの方法にしてもアノテーションの品質管理に注意が必要です。データの偏りや、プライバシー・著作権に配慮するなど、作成時のポイントを押さえて高品質な教師データを作成し、AIを活用した業務効率化に役立たせましょう。
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